なぜ誘われないのか?
ノンフィクション

自分が経験したことしか未来で体験しない。 というのは、2月29日のオフ会のネタのひとつだった。
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体験は、見聞きしたことすべてを言うが、経験は、体験したことを行動に移してみてどうだったか?という「どうだったか?」の部分である。
見聞きしたことを行動に移さなくても、「行動しなかった」という経験をしたことになる。 総じて言えることは、この世には「未経験」などなく、正しくは、行動に移さなかった体験を忘れていることを「未経験」__という。
良子さん(仮名)は、仕事が楽しくないことで辞めるかどうか悩んでいた。 楽しくない理由は、同僚の仲良しグループからランチに誘ってもらえないから。
論理的にこれを説くなら、ランチに誘ってもらえないから(根拠)、仕事は楽しくない(結論)ということである。
そのため、良子さんにとって「楽しい仕事の前提」とは、ランチに誘ってもらえることなのだ。
仲良しグループで自分だけランチに誘ってもらえない。いつも終わってから「あ、もうみんなで行ったんだ」ということに気づいて凹む。
ランチに誘ってもらえない自分はダメなんだと落ち込む。
では、仲がいいのになぜ誘ってもらえないのか?
もしも目の前で「ランチ行かない?」という光景が繰り広げられていたなら、「私も!私も!」となって、そんなに誘われることを望んでいたのであれば、時間を割いてでも行かないだろうか?
では、もし、そうならないとするなら、最初は誘ってもらっていたのに、いつからか「どうせ誘っても来ない」と思われてしまったのか?
自分の自己重要感を守るために人は、欲しいものを失う。
仮にそのことが正しいと仮説すると、「どうせ誘っても来ない」と思われていようがいなかろうが関係なく、良子さんが自分から「次は私も一緒に行きたい」と言えないのは納得がいく。 だから私は、「どうして、次は私も一緒に行きたいって言えないの?」と聞いてみた。 当然、私が言った事実からの問いは、私の耳にも入ってきた。
私の胸の中心あたりが燃えるように熱くなったその瞬間、「私も言えなかったな」というセリフが「ポロリ」と出てきた。
良子さんの悩みが自分のあの日にリンクしたとき、誘ってもらえなくても出てこなかった涙が、ポロポロ流れてきた。
キョトンとする良子さんに私は、こう続けた。
自分をガードしていると、無意識に「見猿、言わ猿、聞か猿」をやってしまう。
周囲の音は耳に入ってこないし、自分の存在も他者に認識してもらえない。
自分が自ら耳を塞いでいたのだとわかると、自分に届いていなかった「嬉しい音」がたくさんあったことに気づけます。
「鶏が先か卵が先か」の話になってしまうけど、誘ってもらえることが良い事で、誘ってもらえないことが悪い事なら、誘ってもらえない私は悪い子だと自分を責めてしまう。
だからさらに耳を塞ぎます。
そうなると、必要な情報が入ってこない。
良子さんにとって必要な情報が「楽しいランチ」であるなら、それが仕事で嫌なことがあっても乗り越えていける力になるのでしょう。
耳を塞ぐことをやめれば、自分に必要な様々なことにアンテナが立つし、必要なものをキャッチできます。
そして一番大事な事は、「今度は私も誘ってね」と自分から言う事。
自分から言わなくても相手から誘ってくることが「勝ち」だと思うなら言えないだろうし、自分が相手より先に「誘ってほしい」と言うことが「負け」だと思うなら、なおさら言えないよ。
それは、楽しいランチより大事なものが「大切にされる良子さん自身」だからじゃないかな?
一緒にランチに行くかどうかより、「誘われたかどうか」が、良子さんにとって大事なことになっていない?
良子さんにとって誘われる目的が、ランチに行くことより「好きな人に勝つ事」になっていない?
まず、勝ち負けとか、良い悪いで物事を決めてしまう「ジャッジ」という世界から自分から抜け出さない限り「今度は私も誘ってね」とは言えないのよ。
そんな私も、楽しい時間を一緒に過ごすために連絡をくれる女性は一人もいないし、ランチに誘ってくれる人も、つらいときに相談できる親友もいない。
だけど、そんな私って、良子さんにとって価値がないのかな?
ただ淋しいって言える人って誰? 別に用もないし、ランチを食べたいわけじゃないけど、ただ会いたい人って誰?
困った時だけじゃなくて、一緒に笑うために会いたい人って誰?
正義や勝ちを信じることより、好きな人を信じることで救われるんだよ。
相手があなたから誘われるのを待っている場合だってある。
そういうのって、言ってみないとわからない。
だから、「頭の中のおしゃべり」は、証拠をつかむために自分から吐き出すこと。
誘って断られるなら、他にふさわしい人がいるということだよ。
良子さんを大切にしてくれる人は、いつもじゃなくて、ちゃんと思い出してくれる人、気にかけてくれる人、良子さんがいたらもっと楽しいなって言ってくれる人を良子さんは求めているんじゃないの?
良子さんは、うなずきならが泣いていた。
私は自分が吐いた言葉が自分の耳に入って来たとき、経営者とは孤独を選んだ結果なのだと、一緒になって大粒の涙を流していた。
ヤマモトマユミ